僕という人間
サラリーマンは我慢の連続
悲劇は突然やってきた。仕事にようやく慣れてきた頃、
上司に呼ばれた。
「お前、明日から空調やってみる?」
空調とはなにかというと、いわゆる業務用のエアコンの
メンテナンスの仕事である。
屋外の天井に設置してある大型エアコンをクレーンで
引き上げて整備基地へ持ち込み、点検してからまた
取り付けにいく、という単純作業ではある。
同僚から「空調はキツイぞ」と噂には聞いていた。
しかも空調のメンバーに選ばれると、
半年間はその仕事につきっきりらしい。
そんなこともあり気も進まなかったのだが、
基本的に人から頼まれたことを断れない性格から
しょうがなく仕事を受けた。
しかし、この選択は大失敗だった。
空調の仕事は3人チームで構成されていて、
そのうち2人は空調専属の人、もう1人は今回の僕のように
持ち回りでチームに加えられる。
このチーム内に曲者がいた。
親分の「K」だ。
職人気質の頑固者で短気。
性格が僕の父親とソックリだった。
僕はゾッとした。
ようやく父親から逃げ出したかと思えば、
今度は職場で父親と同じような人間と仕事を
することになるとは。
空調の仕事の初日。
親分Kとは1日中同じ整備部屋で仕事をしていた
にもかかわらず一言も喋らなかった。
僕は人とコミュニケーションを取るのが苦手な上、
自分の最も苦手とするタイプの人間とずっといるのは、
ストレスでしかなかった。
これが半年も続くのかと思うと
気が遠くなりそうだった。
仕事2日目。
親分Kが朝一でブチ切れていた。
昨日、僕が整備したエアコンの仕上がりを
親分Kがチェックしたことがきっかけのようである。
「自分がバラしたものをまともに組み立てれんのか」
「ベアリングから音がしとる。なんで交換せんかったんじゃ」
「ここのビスがついてない。なにをチェックしとるんじゃ」
整備室中に親分Kの怒鳴り声が響く。
それだけではない。
「大学まで卒業して何を勉強しとったんじゃ」
「組み立て方がわからんかったらなんで聞かんのんじゃ、
お前は幼稚園児か」
など、仕事とは関係のない、人間性まで否定された。
中途半端な仕事をした僕が悪いのはわかる。
でも、そんなことまで言われる筋合いはない。
そんな言葉にも、人との争いが面倒くさい僕は、
ただただ叱られた。
これを半年間、僕は我慢し続けることができるのだろうか。